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2022/04/08

心理学・精神医学に関する書籍買取 「体格と性格―体質の問題および気質の学説によせる研究」1960年、文光堂

今回は心理学や精神医学に関する書籍の買取をしました。以下に特に良い査定額をお付けできたものを紹介します。

「自律訓練法 全6巻 揃い セット W・ルーテ編,池見酉次郎監修 誠信書房」
「児童臨床心理学講座  8冊  内山喜久雄 辰巳敏夫 菅野重道」
「異常心理学講座 9冊 井村恒郎 他編 みすず書房」
「こころの科学 60冊 日本評論社 1994-2009年」
「体格と性格―体質の問題および気質の学説によせる研究 (1960年)」
「精神病理学原論 (1971年)」
「精神力動論 ロールシャッハ解釈と自我心理学の統合 1972年 小此木啓吾 馬場礼子 医学書院」
「カナー児童精神医学 第2版 ジョンズ・ホプキンス大学名誉教授 LEO KANNER著 医学書院」
「ゲゼル心理学シリーズ A.ゲゼル 乳幼児の心理学・学童の心理学・青年の心理学 3冊 家政教育社」

などなど。

上記リストをご覧になるとお分かりのように、前半は「全6巻揃」などの複数冊をまとめてお値付けさせていただいたものが多くありました。「~講座」などと銘打ったシリーズものは、もちろん全巻揃いでお譲りいただいた方が良い査定額がつきます。一部欠けがあるものについても中にはお値段を付けることができるものもありますが、お引取り程度になってしまうことも多いです。

「私のこの本はどうなの?送った後に安値を付けられたら嫌だわ」等、ご不安な方は当社の事前見積もりサービスをご利用ください。本を当店に送る前に査定額の概算が分かるサービスとなっており、無料でご利用いただけます。

 

さて、こちらのブログでは毎回査定スタッフが、買取した本の中から気になった一冊をピックアップしておりますが、今回の一冊はこちらにいたしました。

「体格と性格―体質の問題および気質の学説によせる研究 (1960年)」(エルンスト・クレッチマー著、1960年、文光堂)

です。

※著者名を「クレッチマー」と書きましたが、本書においては「クレッチメル」という発音が採用されています。しかし、現在では「クレッチマー」という表記が一般化しており、以後は「クレッチマー」とします。

また、1960年刊と書きましたが、この写真のものは1974年の訂正を経た1978年9刷です。一時期表紙の色などが違うデザイン違いのものも流通していたようです。

そのようなデザイン違いの本が出るのも仕方がありません。こちらの本、クレッチマーが原書「Körperbau und Charakter」(1921年)を発表してから実に30年以上も経って1955年に発行した21版及び22版を翻訳したものなのです。20版以上も版を重ねれば、そりゃデザインの1つや2つ、変わりますよね。

時代を経るにつれ内容的にも改変が加えられたことは本書冒頭の各版への「序文より」で明らかにされていますが、初版刊行当初より一貫した氏の主張というのが人の「体系」と「人格」にはある種相関関係があり、大別して3つのタイプに分類されるとする考え方でした。これが有名な「クレッチマーの三気質」というもので、精神医学や心理学を勉強する方は絶対に遭遇する事項です。

以下の各体型の人には・・・に続く人格的特徴があるとクレッチマーは指摘します。

細長型・・・分裂気質。静かで控えめ、真面目、非社交的でデリケート、通俗的な物事を軽蔑する傾向。自分に対する評価に敏感に反応する一方で、他人に関しては鈍感。

肥満型・・・躁鬱気質(または循環気質)。社交的で親切、温厚。

闘士型(筋骨型)・・・粘着気質。几帳面で熱中しやすい、頑固、興奮しやすい、物事に執着する、エネルギッシュ。内に溜めた怒りを爆発させることがある。

 

・・・なんせ20版以上も版が重ねられた本ですし、心理学者でなくても、こういった類型があることはなんとなく耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。

「え?じゃあ、ダイエットして痩せたら性格まで変わるの?」といった疑問が出てくるのは当然のことですよね。自身の経験に照らしてみて、「あー、なんとなくわかるかもぉ」といった程度のライトな読み物ならばいざ知らず、精神医学の専門家が大真面目に書いているというところがミソ(?)です。

クレッチマーは氏の関係した患者などから膨大なデータをとり、統計的な考慮を経て以上のような結論にたどり着いた云々を本書で示しているのですが、その統計的な処理についても現在は疑問視されており、近年におけるパーソナリティ研究にはほぼ使われていないのが現状です。

また、この論に立脚し、本書の第17章では「体質と犯罪」として、曰く「肥満型は犯罪者が少ない」など眉唾な主張をしたり、第18章では「天才」と題し、各体型に過去の天才たちを当てはめて、体型をフィルターとして精神病理が天才の発現にどう絡んでいるのかといった彼独自の「天才論」を展開したりしています。(曰く、肥満型の循環気質の天才の例としてルターを、分裂気質の芸術家としてシラーなどを挙げ、ところどころにそういった天才たちの体型を推察する資料として多くの図版も掲載しています。こういった資料収集能力は一定程度スゴイと言えるのかも知れません。)

この「天才」についての論考はクレッチマーが一番といって良いほど執着したテーマで、このテーマのみで「天才の心理学」という本まで出版しています。こちらの本も三大気質・精神病的なバックボーンというフィルターがかかってはいるものの、偉人伝として面白いと評されているようなので、ご参考までに。(岩波文庫「天才の心理学」)

 

現在ではかなりアウトな内容が盛り込まれた本書ですが、先人たちの真理探究の一端として歴史にその名を刻んだクレッチマー。当時としてはその視点の置き方は斬新で、そして、医師・科学者としてはある意味真摯であったのかなと、その人物像を想像させる不思議な本でした。

そして、正しいとは限らない本が、原書初版発行から実に100年経った今でも高値で取引される古本の世界も結構な不思議ワールドだよな、と再確認したのでした。

今回も良書をたくさんお譲りいただき、ありがとうございました!

スタッフN

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