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2022/11/04

歴史・ビジネス・暮らしと趣味などの書籍【325冊12,793円】 「フェルメールになれなかった男: 20世紀最大の贋作事件 (ちくま文庫)」2014年、筑摩書房

今回は歴史・ビジネス・その他暮らしと健康、趣味に関する本など様々なジャンルの本を多数買い取りさせて頂きました。その中から特に良い査定額をお付けできたものを紹介します。

「デーブ・スペクターの作り方」
「ポチらせる文章術」
「足の裏で歩む―板橋興宗米寿記念随想」
「カッパ・ブックスの時代 (河出ブックス)」
「乳酸菌がすべてを解決する」
「増補版 時刻表昭和史 (角川ソフィア文庫)」
「神との対話―365日の言葉 (サンマーク文庫)」
「ワシントンハイツ :GHQが東京に刻んだ戦後 (新潮文庫)」
「小説の書き方 小説道場・実践編 (角川oneテーマ21)」
「私のいらない ~「心の旅」のいま (廣済堂新書)」
「国会議員要覧 平成31年2月版」
「フェルメールになれなかった男: 20世紀最大の贋作事件 (ちくま文庫)」
「ビジネスモデル全史 (ディスカヴァー・レボリューションズ)」
「誠心誠意、嘘をつく: 自民党を生んだ男・三木武吉の生涯」

などなど。

ここに挙がったものは全て2005年以降の比較的新しいものばかりでした。「ポチらせる文章術」などはいかにも最近の本という感じがしますが、こちらが上記中最新のもので2019年の出版です。

ビジネス書などは古くなってしまうと一気に値段が下がってしまいます。新しいうちですと人気のある書籍は再販も見込めるため、当店でも買取歓迎です。本の「旬」が過ぎてしまわないうちに、読まなくなった本は売りましょう!次に読みたい人が待っています!

さて。当店で買取が難しい本のジャンルに「小説」があります。多くの小説はまさに「旬」の波に呑まれてしまい、在庫過剰などの理由から買取が難しいケースが多いです。そして、そういった本にはいわゆる「文庫サイズ」のものが多くあります。

しかし!文庫=買取NG ではない のでご注意ください。文庫の中でも「旬」の波がないもの、一般的には学術書は値崩れしにくい傾向にあります。

岩波文庫、ちくま文庫、講談社学術文庫、中公文庫 など、古典の名作などを取り扱うものが例に挙げられます。

今回ピックアップしたのは、そんなちくま文庫の中の1冊。こちらです。

「フェルメールになれなかった男 20世紀最大の贋作事件」( フランク・ウイン著 小林頼子・池田みゆき 訳 、2014年、筑摩書房) 

です。

以前ランダムハウス講談社から2007年に刊行されたこともありますが、今回ご紹介するのは筑摩書房のちくま文庫版です。原題は「I was Vermeer the rise and fall of the twentieth century’s greatest forger」で、2006年にイギリスとアメリカで刊行されました。

 

この本の刊行から時は進んで202210月、フェルメールについてのホットなニュースがアメリカ、ワシントンD.C.にあるナショナルギャラリーから発表されたことはご存知でしょうか?ナショナルギャラリーにはフェルメールの、またはフェルメールに帰属すると考えられている作品が4点所蔵されています。しかし、ワシントンにあるフェルメール作品のうち2(「赤い帽子の女」「フルートを持つ女」)は、実は長年その真筆性が論議の的となっていたのです。そこで、今年10月から20231月にかけてナショナルギャラリーで開催される「フェルメールの秘密(Vermeer’s Secret)展」に先立ち、X線検査含む様々な視点からの再調査が行われることになり、上記のうち「フルートを持つ女」はフェルメール作ではなく、フェルメールの弟子の作品なのではないか、という結果が出たのです。

※↑写真は私物のナショナルギャラリーのカタログです。この表紙の絵が「赤い帽子の女」で、こちらは今回の調査で「フェルメールのものとして矛盾しない」という結果になったようです。

 

本の内容の話に移ります。今回ピックアップの1冊は実際にオランダで起こった、フェルメールの贋作事件を取り扱ったノンフィクション小説となっております。登場する贋作者、ハン・ファン・メ―ヘレン(本名:ヘンリクス・アントニウス・ファン・メ―ヘレン)ももちろん実在の人物、冒頭に登場する現代の贋作者ヒェールト・ヤン・ヤンセンも、美術批評家たちもみな実在した人物です。

一瞬フェルメールの「青衣の女」に見える本書表紙の絵。これもかの絵に題材をとり実際に作成された贋作で、タイトルを「楽譜を読む女」といいます。これこそがメ―ヘレンの作品なのです。

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以下は、ネタバレ含むざっくりしたあらすじです。

本作の主人公、ハン・ファン・メ―ヘレンは1889年生まれ。幼い頃から絵描きになることを夢見、実際にコンクールで最優秀賞をとり新人画家としてまずまずのスタートを切ります。しかし、絵描きとしては大成せず次第に美術界から疎外されるようになります。そして、自分の才能を評価しようとしない美術界に復讐を誓います。

元々、彼は17世紀、オランダの黄金期の古画が好きでした。特にフェルメールを尊敬していたのです。今でこそ知らない者のいないフェルメールですが、19世紀に再発見されるまでは時代の闇に埋もれており、当時ようやく研究が本格化し始めたところでした。

そんな折、フェルメール研究の第一人者である大物美術批評家が、現在発見されているフェルメール作品には初期宗教的絵画(例「マリアとマルタの家のキリスト」「取り持ち女」など)から後期風俗画(例:「牛乳を注ぐ女」「レースを編む女」など)への以降期にあたるものがないため、その空白を埋める新たな真作が発見されるはずだ、とする論文を発表します。メ―ヘレンは未発見の大傑作を自分の手で発見したいという批評家の心理を突き、その理想通りの絵「エマオの食事」を描き上げるのです。

この絵は、この手厳しい大御所批評家の眼を欺いたばかりでなく絶賛され、470万ドル(本書p363)で買い取られます。

大金を手にしたメ―ヘレンは贋作を次々と生み出します(全部で17作品。フェルメール作品に関しては11作品)。しかし、そのうちの1枚、フェルメール作品として売却した「姦通の女」がひょんなことからオランダも占領下においたナチスのナンバー2、ゲーリング元帥の手に渡ります。そして、終戦後にその絵の出どころがメ―ヘレンであることが当局に知られ、政府は国の宝であるフェルメール作品を敵国に売却した売国奴としてメ―ヘレンを逮捕します。

メ―ヘレンは懊悩します。自らの手で描いたと告白すれば国家反逆罪には問われない。しかし、贋作だとバレれば自分が敬愛するフェルメール作品として美術館の壁を飾っている作品たちが破壊されてしまう…。結局、メ―ヘレンは「エマオの食事」含む数点を描いたことを認めるのです。

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ジョン・バージャーが著作「イメージ 視角とメディア」で述べたという、「同じファン・ゴッホの≪カラスのいる麦畑≫でも、何の情報も添えられていない場合と、ファン・ゴッホが自殺する前に描かれた絶作だという説明文付きの場合とでは、見え方が微妙に異なってくる(訳者あとがきp380より)」という例示から、人は与えられた情報によって見る内容を変容させてしまうという話が、この贋作事件のすべてを物語っているように思えました。

一般人であれば、表紙の贋作「楽譜の読む女」にせよ、「エマオの食事」にせよ、「専門家たちが騙されたくらい贋作なのだから、贋作とはいえ芸術性が高いものなのだろう。言われてみれば良い絵かも。」といったような感想を抱く権威バイアスを持つことが “許される”、という言い方には語弊があるかも知れませんが、“仕方のない”ことでしょう。繰り返しますが、“一般人であれば”審美的判断に先入観があったことを指摘されても少し恥ずかしいくらいのレベルの話かも知れませんが、本事件では数々の専門家たちが、一人の権威が真筆性を認めただけで皆こぞってメ―ヘレンの絵をフェルメールとして受け入れたのです。

絵の専門家と呼ばれる人々の鑑識眼の、なんと頼りのないことでしょう。冒頭のナショナルギャラリーの話もそうですが、数多の専門家が観察してもそれが誰の作品かという意見が分かれるのです。そして、時にはそれが間違っていることもあり、フェルメールの真作とされる作品数は時代によって増えたり減ったりしています。(本書巻末にフェルメール作品一覧があり、贋作疑惑のあるもの、意見が分かれているものが確認できます。) ついこの間も、モンドリアンの絵が75年以上も上下逆さまに展示されていたことが判明したというニュースが美術界をどよめかせました。

読者の中には美術品をしたり顔で批評する人々に滑稽さを感じる方もいるのではないでしょうか。しかし、本書の中でも書かれている通り、オークションで有名なサザビーズでも「すべての売り立て作品は『……作とされている』ということで売却されます。・・・(中略)・・・真筆性、来歴あるいは所有者の財産の歴史歴な信用度についていかなる断言あるいは保証をするつもりはありません(訳者あとがきp385より)」と、はじめから専門家の鑑識眼も当てにならないと告白しているのですから、美術界においては“何を今更”ということなのかも知れません。

また、本作は実際の出来事に取材して書かれたノンフィクションではありますが、同時に小説でもあります。主人公のメ―ヘレンは自堕落で自分勝手、あまり友達にはしたくないタイプの人物として描かれていますが、もし、彼が美術界の重鎮にいじめられ、彼らに復讐する正当な理由を持つ好人物として描かれていたなら、彼の作品への印象も変わったのかな、などと想像しています。そういった人物情報のバイアスも絵画鑑賞に潜んでいる可能性に気付かされた作品でもありました。

 

物語の後日談です。彼の作品は結局、破壊されませんでした。最高傑作とされた「エマオの食事」は現在もボイマンス美術館に所蔵されています。これが彼の最高傑作への敬意としてなのか、ナチのナンバー2を騙したヒーローという称号への賛辞としてなのか、はたまた単にスキャンダラスな事件にまつわる絵として人々の好奇の目を寄せ集めるパフォーマンスとしての措置なのか…。そのうちのどれでなくとも、ことの顛末を知る人々にとっては「美術品の価値とは?」を問いかけてくる異様な作品であることは間違いありません。

1996年にはロッテルダムで「ファン・メ―ヘレン贋作展」も開催され盛況だった(本書p378「訳者あとがき」より)そうですが、今後、来日展をすることはないのでしょうかね?すでに純粋な目で彼の作品自身を鑑賞することは難しそうですが、当時の権威を騙したその腕前、是非間近で見てみたい!とミーハーにも思ったのでした。

 

今回も良書をたくさんお譲りいただき、ありがとうございました!

スタッフN

 

※たくさんお送りいただいたため、お写真はその中の一部です。当店のご利用、誠にありがとうございました!

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