2025/02/21
文芸倶楽部 木版口絵【13冊 39,300円】
買取日記ジャンル
今回は『文芸倶楽部』をまとめて13冊買取させていただきました。
その13冊の中から、執筆者が特に紹介したいのは、次の2冊です。
・(左) 『文芸倶楽部 第六巻第十三編』(明治三十三年)
・(右) 『文芸倶楽部 第八巻第七号』(明治三十八年)
『文芸倶楽部』とは
『文芸倶楽部(ぶんげいくらぶ)』は、明治28年(1895年)に博文館より創刊された総合文芸雑誌です。昭和初期まで続きましたが、時代の移り変わりとともに読者の嗜好も変化し、1933年(昭和8年)に廃刊となりました。
純文学だけでなく、歴史小説、探偵小説、俳句、短歌、随筆、評論など幅広いジャンルを扱い、多くの読者を獲得しました。日本近代文学の発展に大きく貢献した重要な雑誌の一つであり、現在でも研究対象として価値が高いものとされています。
そして、本の中には木版口絵が添えられています。当時の購読者にとってはこちらが目当てと言っても過言ではありませんでした。武内桂舟や水野年方などの画家による美しいイラストが掲載されていたことが人気の理由の一つでしたし、現在もコレクターの間で注目されています。
目次を覗いてみると、小説を執筆した著者だけでなく、口絵を担当した画家の名前も記載されています。あまり知られていない名前が多い中、なんと「徳田秋聲」と「水野年方」の名が見つかりました。
・徳田秋聲(とくだ しゅうせい、1872年 – 1943年)
尾崎紅葉の門下として文学活動を開始した小説家です。自然主義文学の代表的作家として、『新世帯』(1908年)、『足迹』(1910年)、『黴』(1911年)、『爛』(1913年)、『あらくれ』(1915年)などの作品を発表しました。
・水野年方(みずの としかた、1866年 – 1908年)
明治時代の浮世絵師・日本画家で、木版口絵や錦絵の分野で活躍しました。月岡芳年の弟子であり、鏑木清方の師匠としても知られています。美人画を得意とし、多くの作品を残して近代日本画の発展にも貢献しました。
木版口絵について
以前のブログでも取り上げた木版口絵(鏑木清方 木版口絵 ほか【69点 244,070円】)ですが、改めて説明します。
木版口絵は、明治時代から大正時代にかけて、小説や雑誌の冒頭に添えられた版画です。錦絵の技術を継承しつつ、近代文学の世界観を鮮やかに表現しました。本を開いた瞬間に目に飛び込んでくる木版口絵は、物語の第一印象になります。
今回ご紹介する『文芸倶楽部』に収録されている木版口絵は、以下の2点です。
・『文芸倶楽部 第六巻第十三編』(明治三十三年)より 水野年方「しのび音」
庭園で語らう男女が描かれています。
・『文芸倶楽部 第八巻第七号』(明治三十八年)より 水野年方「薬玉」
この作品には、薬玉と呼ばれる伝統的な装飾品を手にする美しい女性が描かれています。薬玉は、古代日本において薬草や香を詰めて魔除けや装飾として用いられ、後に折り紙の技法を用いた装飾品として発展しました。
今回の買取について
口絵は本から切り離され、口絵単体で保存されることが多いですが、今回は本と口絵が13冊・13枚そろった状態で、良好な保存状態でした。
状態の良さ、市場での評価、そして作品が持つ歴史的価値などを総合的に判断し、13冊を39,300円とさせていただきました。
似たジャンルの木版画のご売却をご検討中の方はご参考まで。
スタッフJ