2026/04/23
教育学・社会学関連書籍の買取
買取日記ジャンル
今回は、教育学・社会学関連の書籍をお譲りいただきました。その中から、気になったこちらの1冊をご紹介いたします。
ウィリアム・ピータース;白石文人 訳 1988『青い目 茶色い目:人種差別と闘った教育の記録』日本放送出版協会
目次
はじめに
この本は、アメリカの小学校教師であるジェーン・エリオットが行った授業の記録をまとめたもので、人種差別とは何かを子どもたち自身の体験を通して考えさせる教育実践です。教育の現場で差別について、どのように教えることができるかを考えるうえで、示唆に富んだ一冊です。
本書が書かれた背景
1950年代ごろからアメリカ社会では黒人差別の問題が大きく取り上げられ、人種差別について議論が広がっていきました。そのような中で、1968年に公民権運動を牽引してきたキング牧師が暗殺されました。
そのニュースを聞いたエリオットのクラスの子どもたちは、「なぜキング牧師が撃たれたの?」と質問しました。しかし、差別の仕組みを言葉だけで説明するのは簡単ではありません。エリオットは、子供たちが差別の問題を自分のこととして理解できる方法はないかと考えました。
そこで彼女は、ある大胆な授業を思いつきます。それが「青い目」と「茶色い目」で子どもたちを分けるという実験的な授業でした。
授業の内容
アイオワ州のライスビルで、白人の小学校三年生を対象に、クラスの子どもたちを「青い目の子ども」と「茶色い目の子ども」に分けました。そして最初の一週間は、茶色い目の子どもが優れていると説明します。
茶色い目の子どもたちは前の席に座ることができ、休み時間も青い目の子どもたちよりも五分ほど長くなります。また、エリオット先生から褒められる機会も増えます。一方、青い目の子どもたちは誘われたとき以外に茶色い目の子どもたちと遊んではいけなく、大きな遊び道具を使用することを禁止されてしまいます。
さらにエリオットは、青い目の子どもは能力が低く、問題を起こしやすいことを説明します。すると、クラスの雰囲気はすぐに変わりました。
茶色い目の子どもたちは、自分たちが優れていると言われたことで自信を持つようになります。次第に、青い目の子どもを見下すような態度をとるようになりました。さらには、前日までの友達に、同情の欠片もない軽蔑の視線や仕打ちが平然と行われました。あたかも翌週になると立場が逆転するということをすっかり忘れているかのごとく、クラスでは茶色い目の子どもたちによる差別的な行動が蔓延していきました。逆に、差別される側になった青い目の子どもたちは、落ち込み、発言も少なくなっていきます。
何かしら間違いを犯せば、「青い目だから」と言われてしまいます。忘れ物をしたり、うっかり茶色い目の子どもにぶつかってしまったり、ストレスのあまり教科書の端をクルクル巻いたりする行為は、「青い目だから」と言われた結果から来るものや偶然のものであり、決して「青い目」であることが原因ではありません。
翌週、エリオット先生は先週までの規則を取り消します。そして今度は、青い目の子どもの方が優れていると言い、先週までとは逆の扱いをします。
すると、これまで差別されていた青い目の子どもたちが自信を取り戻し、活発に発言するようになります。一方で、茶色い目の子どもたちは急に自信を失い、授業でも消極的になっていきました。
この体験を通して、子供たちは差別する側と差別される側の両方の立場を経験することになります。
子どもたちが学んだこと
授業の最後に、エリオットは子供たちと一緒に話し合いを行います。子供たちは、自分たちが経験したことを振り返りながら、差別されることがどれほどつらいかをそれぞれ語りました。
そして多くの子どもが、目の色という違いだけで人を判断するのはおかしいということに気づきます。キング牧師もまた、差別から救おうとして、差別によって殺されたのです。本質的には、白人は黒人を同じように扱うことができるはずです。つまり、差別とは生まれつきの違いではなく、社会の中でつくられてしまうものだということを理解したのです。
教育の力
この本が示しているのは、差別の問題を単なる知識として学ぶだけではなく、体験を通して理解することの大切さです。人は頭で理解するだけではなく、自分の感情や経験を通して学ぶことで、より深く物事を理解できるのかもしれません。
もちろん、この授業には賛否もあります。子どもたちに強いストレスを与える可能性があるため、教育として適切なのかという議論もあります。しかし、それでもこの実践は、差別の問題を真剣に考えるきっかけを多くの人に与えました。
考察
さらに、この本を読みながら、いくつかの思想家の議論を思い出しました。教育や社会の問題を考えるうえで、この授業の意味をもう少し深く理解する手掛かりになると思います。
まず考えたのは、人が傷つく可能性についてです。ジュディス・バトラーは、人間はそもそも他者との関係の中で生きており、常に傷つく可能性を抱えた存在であると述べています。このような状態は「ヴァルネラビリティ(可傷性)」と呼ばれます。人は孤立した存在ではなく、他者の言葉や態度、社会の眼差しによって影響を受けながら生きています。
エリオットの授業では、目の色という単純な違いだけで、子どもたちの自信や態度、さらには学習の成績まで変化しました。このことは、人がいかに周囲の評価や言葉によって傷ついたり、逆に力を得たりする存在であるかを示しているように思います。
次に思い出されるのは、社会学者のロバート・K・マートンが提唱した「予言の自己成就」という考え方です。これは、ある期待や予測が人々の行動を変化させ、その結果として最初の予測が実際に実現してしまう現象を指します。
エリオットの授業では、最初に「青い目の子どもは劣っている」「茶色い目の子どもは優れている」という説明がなされました。すると子どもたちは、その評価に合わせた行動をとるようになります。優れていると言われた子供は自信を持ち、劣っていると言われた子供は自信を失う。そしてその結果、実際に学習の成績にも差が生まれてしまいました。つまり、最初に作られた評価が、子どもたちの行動を通して現実のものになっていったのです。この点で、この授業は「予言の自己成就」を非常にわかりやすく示している例だといえるでしょう。
さらに、この授業の様子を考えるとき、ハンナ・アーレントが語った「悪の凡庸さ」という言葉も思い出されます。アーレントは、大きな悪が必ずしも特別に残酷な人によって行われるのではなく、ごく普通の人々が、状況や制度の中でそれに加担してしまうことがあると指摘しました。
この授業のなかでも、子どもたちは最初から誰かを傷つけたいと思っていたわけではありません。それでもこちらが優れていると言われた瞬間に、自然と相手を見下したり、排除したりする態度をとるようになります。この点には、人間が状況によって簡単に差別の側に回ってしまう可能性があるという、ある種の恐ろしさが現れているように思います。ただしそれは特定の誰かを責めるためのものではなく、むしろ誰もがその状況に陥りうるという意味で考える必要があるのかもしれません。
そして最後に考えたいのは、体験することの限界についてです。この授業では、子どもたちは差別する側と差別される側の両方を経験しました。その体験は、差別について理解する大きなきっかけになったことは間違いありません。
しかし同時に、一度体験したから差別を完全に理解したと言い切ってしまうことにも、ある種の危うさがあります。実際に差別を受け続けてきた人々の経験は、短い授業のなかで完全に再現できるものではありません。体験を通して理解しようとする姿勢は大切ですが、それだけで「わかった」と言ってしまうことは、別の形の暴力になってしまう可能性もあるでしょう。
このように考えていくと、この本は単なる授業の記録というだけではなく、人間がどのように他者を見てしまうのか、そして教育がその問題にどのように関わることができるのかを考えさせてくれる本だと言えると思います。差別とは遠いところにある問題ではなく、私たちの日常のなかにも潜んでいるものなのかもしれません。
おわりに
本書は、1988年に放送されたNHK特集「ワールドTVスペシャル」の内容をもとに書かれた本です。このNHK特集は、「等身大の世界を茶の間に」という合言葉のもと、国際的に評価された放送番組を日本の視聴者に届ける試みでありました。元となる番組は、アメリカの公共放送PBSで全米に放送されたものです。
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| ISBN | 商品名 | 出版年月日 | 査定 |
| 4622021978 | タイプ論 | 1987/5/8 | 1710円 |
| 414008622X | 青い目茶色い目: 人種差別と差別と闘った教育の記録 | 1988/12/1 | 685円 |
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| 4120027317 | 自伝の時間: ひとはなぜ自伝を書くのか | 1997/10/1 | 350円 |
| 4326250526 | ニューカマーの子どもと学校文化 | 2006/3/31 | 320円 |
| 483730107X | やさしい顔と手の描き方 | 1977/3/18 | 310円 |
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今回も良書をたくさんお売りいただき、ありがとうございました!
スタッフT
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