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2022/11/17

生物学・脳科学・社会学・思想などの書籍【約430冊30,244円】 「脳の中の身体地図―ボディ・マップのおかげで、たいていのことがうまくいくわけ」2009年、インターシフト

今回は生物学や医学(脳科学に関するもの中心)などの理系書籍から社会学や思想、政治、歴史などの人文科学系書籍など、幅広いジャンルの書籍の買取をいたしました。以下に特に良い査定額をお付けできたものを紹介します。

「遺伝子から解き明かす昆虫の不思議な世界」
「植物をたくみに操る虫たち: 虫こぶ形成昆虫の魅力 (フィールドの生物学)」
「脳の中の身体地図―ボディ・マップのおかげで、たいていのことがうまくいくわけ」
「ペニスの文化史」
「ニュー・アンカー英作文辞典」
「信州の縄文時代が実はすごかったという本」
「非超現実主義的な超現実主義の覚え書 (1962年)」
「ロシアの革命」
「天皇の陰謀〈前篇〉 (1973年)」
「匂いの帝王」
「ロリータ、ロリータ、ロリータ」
「グールド魚類画帖」
「人民に奉仕する」
「神は妄想である―宗教との決別」

などなど。

基本的には2000年以降に発行された比較的新しい書籍が多かったですが、上記をご覧になるとお分かりのように「非超現実主義的な超現実主義の覚え書 (1962年)」「ロシアの革命」「天皇の陰謀〈前篇〉 (1973年)」など1980年以前に発行されたISBN(各書籍に付された10桁、または13桁の数字)がないものにも高い査定額がつきました。

古書店の中にはこういった古い本はISBNがないという理由のみで買取を拒否されてしまうこともあるようですが、当店ではISBNがなくても買取歓迎しております。他店で断られたという方、是非一度当店をご利用してみてください。

ただし、本のジャンルによっては古くなってしまうとどうしても価値が下がってしまい当店でもあまりお値段が付けられない、もしくは買取をお断りするケースもございます。例えば、ビジネス書や医学書、法学関連などは新しい情報に重きが置かれるため、関連する書籍の価値自体も下がりがちです。

「どれくらい古いものだと買い取れないの?」「どういうジャンルのものが買い取れるの?」などなど、当店における買取の可否の詳細については「買取できるもの・買取できないもの」をご参照ください。また、こちらの一覧ではカバーしきれていないジャンルや条件の書籍については事前見積をご利用いただけますと安心です。概算とはなりますが、実際に本を送る前に査定額を知ることができます。事前見積は無料でご利用いただけます。

 

さて。それでは、いつものように買取から印象に残った1冊をピックアップしたいと思います。

今回はこちらの1冊にしました。

「脳の中の身体地図 ボディ・マップのおかげで、たいていのことがうまくいくわけ」

(サンドラ・ブレイクスリー、マシュー・ブレイクスリー著、小松淳子訳、2009年、インターシフト)

です。

2007年に出版された「The Body has a mind of Its Own – How Body Maps in Your Brain Help You Do (Almost) Everything Better」の翻訳本で、同年「ワシントン・ポスト」紙の科学・医学部門のベスト・ブックに選出されています。

ところで、著者に2名の“ブレイクスリー”が並んでおりますが、こちら、ご夫婦ではなく母と息子です。アメリカのサイエンスライティング界においてブレイクスリーと言えば有名一家らしく、母サンドラの祖父ハワード・ブレイクスリーはその草分け的存在なのだそうです。

サンドラ・ブレイクスリーの著作には神経科学者・心理学者であるVS・ラマチャンドランとの共著「脳のなかの幽霊」(1999、角川21世紀叢書)がありますが、この脳科学分野についての一般向けヒット作のおかげで名前に聞き覚えのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

名前に聞き覚え、といえば「ラマチャンドランの名前もどこかで聞いたことがあるなぁ」と思ったら、あの「ブーバ・キキ効果」の命名者だったのですね。どおりで!(納得)

 

…話が逸れました。

著者は本書の目的を「心と身体がどのように絡み合って感情のある身体化された自己を創出するのか、という古くからの謎に対する最新の科学的解答を紹介する(「はじめに-身体化された脳」P12より)」こととしています。その科学的解答を導くために注目したのが脳内において自身の身体と身体の周りの空間、社会を“マッピング”したボディ・マップで、これを話題の中心に据えた脳神経科学の最新知見(当時)を一般向けに易しく解説した一冊となっております。

ボディ・マップという言葉ですが、いまやインターネットで単語検索してみると脳神経科学においてのみではなく、非常に多くの分野で使用されています。実際に、先ほど「ボディ・マップ」でググってみたところ、教育、スポーツ、音楽、メンタルヘルスなど様々なサイトでそれについて言及されていることが分かりました。それらに軽く目を通してみると、ボディ・マップは「自分自身の脳の中にある自分自身の身体のイメージである」と要約されています。なるほど、それを上手くコントロールすることができれば、確かに上記のような分野で良いパフォーマンスをするためのカギになりそうな気はします。

写真:ペンフィールドにより“ホムンクルス”と名付けられたボディ・マップは有名

一方、本書はそういった分野で言及されるところのボディ・マップというよりは脳神経科学や解剖学に基づいたそれの解説と、それが我々が生きていく中でいろんな物事を認識することにどのような影響を与えているのかということを解説した、一般書ではあるけれども専門書寄りの書籍といえます。

もちろん、本書でもボディ・マップに着眼することから得られる実用的な側面、例えば、

  • スポーツ選手やピアニストのイメージ・トレーニングが発揮する高い効果
  • あしつぼ石が健康に良い理由
  • 赤ん坊にはどんどん動き回らせた方が良い理由

などなどについても触れ、私たちの日頃の行動や専門家たちや先人たちが実践してきた「良いとされること」の理由付けが脳神経科学というフィルターを通して鮮やか解説にされており、読んでいてワクワクしました。

しかし、本書中盤にかかると、ボディ・マップや脳の機能そのものに損傷を負う、もしくは通常とは異なる状態になることで生じる

  • 半側無視(自分の身体半分を認知できない)
  • 幻肢(麻痺しているはずの身体の部分が存在しているように感じる)
  • 他人の手症候群(自分の手なのに、他人の手のように動く)
  • 共感覚(普段は別々であるはずの感覚が結びついて知覚される。例えば、味に形を感じる、数字や文字に色がついて見えるなど。)

なども紹介し、少し専門性が増します。共感覚については映画「ギミー・ヘブン」(懐かしい!)などでも取り扱われ、いくらかメジャーになった感はあるものの、その他の症状については、そういった人たちが居るのだということ自体が初耳で新たな知識を得ることができました。また、ボディ・マップが健全に機能することの重要性を再認識させられていきます。

上で挙げたような症状に関しては日常生活の中でそういった症状を抱える人と遭遇することは滅多にないと思いますが、拒食症の人や、ダイエットに成功したのにまだ太っていると思い込んでいる人の話、自閉症の原因は?など、ちょっと身近な誰かも悩んでいそうな話も紹介されています。また、本書には少なくない量のコラムが途中で挿入されているのですが、その中でも、脳神経科学にまつわる個人で挑戦できる簡単な実験が紹介されていたり、未だ解明されていない脳領域とボディ・マップの謎について紹介されていたりと、更にこの領域を深く知るための材料を提供してくれています。

本書を読んでいると、わたしたちが日常生活において遭遇する、自身の身体と認知に関する様々な事象について、あまりになんでも脳の機能で説明がついてしまうため、「私たちが「これは自分の感情だ」と思っているものは実は単なる電気信号の送受信であって「自分らしさ」や「自由意志」なんてものはないんじゃないか?」「あるのはニューロンの良し悪しだけなんじゃないか…?」などという絶望的な気分になってきます。実際に、本書でも巻末に近づくにつれ、情動愛情、憎悪、欲望、嫌悪、謝意、敵意、自信、困惑…などの人間としての典型的な情動を感じたときに活発化する脳のマップの話(右前島皮質と前帯状皮質)を扱うようになっていきます。そして、まさにこの疑問に対して、本書ではこの「「自己」とは何か?」について「あとがき」で答えを出しています。それが以下の部分。

「それでは、自己は突き詰めて言うと、錯覚に“過ぎない”のだろうか?今は亡きノーベル賞受賞者フランシス・クリックの言うとおり、私たちは”ニューロンの塊に過ぎない”のか、それとも、もっとわかりやすく言い換えれば、“錯覚の塊に過ぎない”のだろうか? – (中略) – 答えはイエスである」

…ちょっとショックではありませんか?

しかしながら、著者はこういった”錯覚”の奴隷であるところの我々について悲観的ではないニュアンスで本書を締めくくっています。私はそれに腑に落ちなさを感じつつも、理解はできるかなという感想を持ったのですが、他の方たちがどのような感想をお持ちになるのかは本書を読んでいただいてからの共有を待ちたいと思います。

 なお、脳神経科学を突き詰めていくと、本文後半で述べたように多分に人間の情動に関する哲学的な考察に行き着きます。本書においては、著者自身も「フッサール、メルロ・ポンティ、主観論、クオリアなどの内容は割愛した」と述べているため、そこが私の腑に落ちない感じに結びついているのかも知れません。冒頭のラマチャンドランとの共著ではこのような哲学的なトピックについても触れられているようですので、未読の方は本書と合わせてお読みいただくと納得感が増すのかも知れません。

…また読みたい本が増えてしまいました。

今回も良書をたくさんお譲りいただき、ありがとうございました!

スタッフN

※非常に多くの書籍を送っていただいたので、写真はそのうちの一部です。

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