2024/04/26
心理、精神分析・哲学・音楽等関連書籍の買取 【約155点 11,629円】
買取日記ジャンル
今回は大きく分けて①ユングやフロイトなどの精神分析関連や心理学関連の書籍、②哲学や倫理学、③音楽に関連する書籍 (楽譜含む)を中心に買い取りさせていただきました。
全部で段ボール3箱分に入っていた約155点のお品物のうち、100点近くを拝見した中で一番高い買取額となったのは
こちら
『〈始まり〉のアーレント――「出生」の思想の誕生』森川 輝一 (著)、2010、岩波書店
でした。ちなみに今回の高額買取商品は以下のようになっております。(250円以上の買取額となったものを抽出。)クリックすると別タブで拡大表示されます。
(買取額は市場の需要と供給のバランスにより変動するため、現在とは異なる可能性がございます。上記は2024.4.23時点の金額です。)
『〈始まり〉のアーレント――「出生」の思想の誕生』とその周辺
今回の買取最高額となった上記書籍の主題、ハンナ・アーレントはドイツ出身のユダヤ人政治哲学者です。
ナチス・ドイツ時代にヒトラーの右腕としてユダヤ人の強制収容所移送において指揮を担い、結果、多くのユダヤ人を死に追いやったアドルフ・アイヒマン。そのアイヒマンが戦後、イスラエルに連行され戦犯として裁判にかけられた際、ハンナ・アーレントは自ら法廷記者としてその様子を取材しました。そして、それを克明に著した『
今回買い取りさせていただいた『〈始まり〉のアーレント~』は、そんなアーレントが遺した膨大なテクスト群のうち1929年の最初の作品から1960年前後に至るものを読み解き、彼女の政治思想形成の源流を探る試みがなされています。
また、下から2番めの『バレンボイム/サイード 音楽と社会』からも、ユダヤを巡る問題—イスラエルとパレスチナの影が立ち上ります。
バレンボイムとは世界的に有名なピアニストであり指揮者で、出身地はアルゼンチンではあるものの国籍はイスラエルのユダヤ人です。一方、『オリエンタリズム』で知られるサイードはエルサレムでキリスト教徒として生を受けたパレスチナ人です。サイードは文学研究や文学批評などで優れた文筆家として活動する傍ら、音楽にも造詣が深くピアニストとしても活躍していた一面を持ちます。そんな中、バレンボイムとサイードは親友となり、イスラエルとアラブ双方の若手音楽家を団員とする楽団(ウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団)を立ち上げたのです。
この『音楽と社会』の中でもそうしたイスラエルとパレスチナの音楽家を招いたワークショップ(ワイマール・ワークショップ)の話や、グローバリズムと土地、アイデンティティの問題、ベートーヴェンについて・・・などなど音楽と社会について様々なトピックで語り合っています。
非常に陳腐な感想ですが、今でこそこういった対話のあり方が読まれるべきですし、実践されるべきだと感じます。
古本の値付けと時事
当店は古本の中でも比較的専門性の高い(例えば、大学の授業などで利用されるテキストであったり、論文集であったり、その道の研究者の方が利用するようなややマニアックな)書籍の買取を得意としています。
そういった専門性の高い書籍というのは、最新の技術を扱った医学書や最新の動向に基づいて記述された経済学書やビジネス書などを除き、比較的値崩れがしにくい傾向にあります。
そして、そういった値崩れしにくい書籍の値段が、ある要因により更に上がることがあります。
そのパラメータとは、時事的な話題性の高さです。
例えば、ハマスによる攻撃に端を発したイスラエルと中東諸国との武力衝突。現在もイランとの間で報復の応酬となるなど、先が見通せない泥沼状態です。
本ブログはあくまでいち古本屋の「こんな本が高く買取れますよ~」という至って平和な場(?)なので政治的な思想信条はあまり口には出したくないのですが、このきな臭さの周辺で嫌でも連想させられるのは第二次世界大戦、否、そのもっと前から世界中で迫害を受けてきたユダヤの人々のことでしょう。
この問題に関連する本が今回高額査定となっていることは無関係ではありません。今、世の中で起きていることをもっと掘り下げて知りたい、そんな知的な欲求が古本含む書籍の市場には反映されます。
当店の値付けには、そういった世の中の関心度の高さも加味されています。
洋書・書き込み・ドッグイヤーも買取OK
当店ブログを普段から読んでくださっている方にはもう耳にタコかも知れませんが、当店では英語で書かれた洋書の買取も積極的に行っています。今回も何冊かありました。
こちらは中を見てみると所々に書き込みや線引きがありましたが、180円ほどで買い取らせていただきました。(線引きがなければもう少しお値段つけられたかと思います。)
また、別の本ですが角折れ(ドッグイヤー)が多数あるものもありました。こちらも買取しました。
ちなみに、こちらは洋書ではなく、この↓本でした。(買取額は上表参照)
『私にとってオウムとは何だったのか』早川 紀代秀/川村 邦光 (著)、2005、ポプラ社
今回、高額となるものはあまりありませんでしたが、オウム真理教関連の書籍も複数ありました。未だに多くの日本人にとって(ふと、オウム事件を知らない若者も増えていることに思い至り、愕然としましたが)喉に刺さった小骨のような、釈然としない感情を巻き起こす事件であったと思います。
こちらの本が出版された13年後の2018年、オウム真理教関連事件の死刑囚全員の刑が執行され一つの区切りはついたのかも知れませんが、まだあの事件の影響で苦しんでいる方がいること、最近になってまた新興宗教団体にスポットが当たったことも合わせ、「あれはなんだったのか」を今また問い直すことには非常に意味があると感じます。
買い取らせていただいた本は、できる限り次に必要とする方に繋げていきます。
今回も良書をたくさんお譲りいただき、ありがとうございました!
スタッフN
※写真はお送りいただいたもののうちのほんの一部です。