2025/08/08
アート・建築・デザイン関連の買取 【221点 44,957円】
今回も素敵な本をお売りいただきました!
特に興味を惹かれたのはこちらの一冊でした。
『アンティーク・ディーラー 世界の宝を扱う知られざるビジネス』
石井陽青、朝日新聞出版、2013/8/7(ISBN9784023312012)
美と謎のヴェールに包まれたアンティーク・ディーラーの世界。本書の著者は銀座の帝国ホテルにてアンティークショップ「アンティーク・アイ」を営む石井陽青さん。世界中を飛び回って骨董品を仕入れ、審美眼を磨いてきた正真正銘のアンティーク・ディーラーです。
アンティーク、というと私の場合真っ先に思い浮かぶのは、ヴィクトリア朝の椅子や化粧台など日常生活で実際に使用されながら年月を経ていく道具たちです。しかし、本書で扱っているのは主に鑑賞のために作られた美術品。また、その内容はカメオ(石や貝などに、浮き彫りを施した装飾品)からガンダーラ像まで様々です。本書はアンティークに関する基礎的な知識から、種類ごとの真贋の見分け方、各国のアンティーク事情まで、著者の石井陽青さんの体験と織り交ぜて紹介されており、非常に興味深いと同時に、ロマンあふれる一冊となっております。
目次
アンティークとヴィンテージの違い?
ところで、アンティークとヴィンテージの違いをご存知でしょうか?
答えられる方はお見事。本書の第1章によると、ヴィンテージは全般的な「古いもの」を指し、用法がまちまちな一方で、アンティークには厳密な定義があるそうです。
なるほど……ちなみに、調べたところ「ヴィンテージ」という言葉はそれが指す物によってはしっかりと定義が存在する場合もあるそうです。
例えば車。これまたアメリカでは米国運輸省によって製造から25年が経過したものを「ヴィンテージ・カー」としてアメリカの安全基準を適用せずに輸入できます。
言葉の定義は商品価値を定めるうえで非常に重要なことですが、個人的には、たとえ定義に当てはまらなくても、歴史を感じさせる逸品を自分で楽しむ時には、あえて定義の境界をぼかして、それをアンティークやヴィンテージと呼びたい、と思ったりもします。
アンティークの見極め方
前述しましたが、本書ではアンティークの楽しみ方や知識はもちろんのこと、未経験者にもできるアンティークの見極め方が種類ごとに解説されています。
石製カメオと貝製カメオの見るべき場所の違いから、ジュエリーごとの見極め方、象牙と骨製品の見分け方などなど。見ているだけで大変興味深いです。
象牙? 輸入していいの? と疑問を持たれた方もいらっしゃるかと思いますが、日本ではワシントン条約発行以前に持ち込まれた象牙であれば取引可能だそうです。あるいは禁止されていない象牙としてマンモスの牙があるそうですが……ちょっと貴重そうですね。
アンティークの本場、イギリス
個人的なイメージでは、アンティークといえばイギリスという印象がありますが、どうやらこの感覚はあたっていたようです。本書の第3章「ヨーロッパのアンティーク事情」では、イギリスの美術品に限らず、世界中の良品はすべてロンドンの市場に集まるのだといいます。
1851年の万国博覧会といえば、世界最初の万国博覧会であり、世界にヴィクトリア朝の栄華を知らしめるきっかけとなった出来事である、と世界史で習った覚えがあります。
世界がイギリスに注目した出来事でしたが、同時にイギリスが世界の文化に目を向けるきっかけとなった出来事でもあったようです。この記事を執筆している現在、日本で大阪万博が開催中ですが、思わぬところで万博の歴史に触れられ、そういった意味でも大変興味深い一冊だと感じさせられます。
それから200年近くもの間、世界最高のアンティーク市場であり続けたイギリス。今でもその伝統は守られていますが、最近は世界のアンティーク市場そのものが縮小しており、昔と比べて良品を見つけるのが難しくなっているそうです。
実際、近年の美術品の流行、特に投資目的の絵画においては、現代美術の躍進に目覚ましいものがあります。最近は「絵画を買った」という友人の家を訪ねても、すべて現代美術。確かに、どれも魅力的で心を打つものも多いのですが、たまには古美術も……と願わずにはいられません。
そんな縮小する市場において、本書ではある人々を市場で見かける機会が増えたといいます。それは中国の人々。経済的に大きな成長を遂げた中国ですが、中国国内では不動産を所有できないという事情から動産への関心が高く、世界中の市で中国人のディーラーは増加傾向にあるようです。とはいえ、イギリスは文化的にアンティークへの関心が高く、長い時間をかけて培った世界との人脈や流通ルートがまだまだ健在ですので、「良品は中国に集まる」という時代がもし到来するとしても、それはずっと先の話になるのではないかな、と個人的には思います。
アンティーク・ディーラーは足で稼ぐ
さて、本書に一通り目を通してみると、意外な事実に直面します。それはアンティーク・ディーラーという高尚でしたたかな言葉の響きから連想されるイメージとは裏腹に、その仕事はかなりの体力勝負だということです。
古美術を扱う手つきや審美眼には一種の上品さがありますし、世界の古物商たちを相手にするにはしたたかな交渉能力が必要なのですが、一方で骨董市にある膨大なアンティークひとつひとつを吟味し、何時間にもわたる交渉で相場よりも下げて商品を仕入れる、というのは根気と美術品への愛情がなければできない仕事だと思います。
さらに、ディーラーの主な仕入先は海外です。それゆえ、ディーラーは海外事情に精通している必要があります。本書では海外のアンティーク事情にかなりの紙幅を割いて紹介しており、各国ごとに濃いエピソードが紹介されています。
ヨーロッパではイギリスやフランスをはじめとして、アジアではネパール、パキスタン、ミャンマー、中東ではシリアやイスラエルなどなど。石井陽青さんのパスポートの出入国スタンプ欄がどうなっているのか、少し気になります。それだけ足で稼ぐ職業であり、仕入れのためなら東奔西走も厭わないのですから、やはりその情熱は並々ならないものだと感じます。
価値あるものを次代へ
アンティークの装飾品が持つ本当の価値は、やはりそのものが持つ歴史でしょう。100年以上もの時のなかで失われずに残っていたことそれ自体が尊いことであり、それだけ誰かに大切にされてきたということでもあります。また「良質なアンティークは減少傾向にある」と本書では説明されていましたが、本書の通読中、私はずっと気になっていたことがありました。
「100年以上前のジュエリーがアンティークなら、アンティークの総量は減らないのでは?」
これについては本書の後半に説明がありました。曰く、100年前(第一次世界大戦)頃を境にヨーロッパ貴族の力は失われ、同時に熟練の職人がパトロンの注文を受けてひとつひとつのジュエリーを手作業で作る機会が減ってしまいました。それにとって代わったのが、国力を増したアメリカの中産階級向けの、機械による安価で大量生産されたジュエリーです。
しかしアンティークの真価とは、熟練の職人たちが、選び抜いた良質な素材を長い時間をかけて加工し、つくり上げた一品に宿るものであると石井陽青さんは語ります。
それゆえにアンティークは美術品として価値があり、人の心を打つのだと。
これを読んで、ふと私は友人たちの家に飾られていた現代美術の絵画のことを思い出しました。それもまた、画家が長い時間をかけて描きあげた世界にひとつだけの作品でした。それを誇らしげに紹介し、眺める彼らの満足げな表情は、今でも脳裏に輝かしく蘇ります。
これまで私は、古いものは歴史的なロマンがあるという理由で古美術に価値を見出していたように思います。もちろんそれはなんら間違ってはいないと思うのですが、本書を読んで、欠けていた視点を教えてもらったような気がします。どんな美術品でも、それは世界にひとつしかない尊い作品です。アンティークの場合はそこに、歴史的価値が加わります。100年といえば人一人の一生を越える長い時間です。
その長い時間を越えて愛されてきたものを残し、魅力を伝えていく。アンティーク・ディーラーという仕事とその意義深さについて、理解が深まる読書体験でした。
また、本書のあとがきにはアンティーク・ディーラーではなく、一児の父親として、ひとりの人間としての石井陽青さんの赤裸々な思いが綴られています。非常に熱い思いにさせてくれるのでぜひご一読いただきたい一冊となっております。
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今回の高額買取商品一覧
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本日も良書をお売りいただき、大変有難うございました!
スタッフR
※下の画像は送っていただいた商品のほんの一部です。







