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2022/10/13

ビジネス書・社会学、社会福祉関連等の書籍の買取【35冊 5,130円】 「21世紀の道徳 学問、功利主義、ジェンダー、幸福を考える (犀の教室)」(2021年、 晶文社)

今回は社会福祉やビジネス、社会学や政治の他、料理本などの幅広いジャンルの書籍の買取をいたしました。その中から特に良い査定額をお付けできたものを紹介します。

「月夜の森の梟」
「THE MODEL(MarkeZine BOOKS) マーケティング・インサイドセールス・営業・カスタマーサクセスの共業プロセス」
「ふたりは同時に親になる: 産後の「ずれ」の処方箋」
「21世紀の道徳 学問、功利主義、ジェンダー、幸福を考える (犀の教室)」
「どうして男はそうなんだろうか会議 ――いろいろ語り合って見えてきた「これからの男」のこと (単行本)」
「神崎メソッド 自分らしく揺らがない生き方」
「こんなにおもしろい社会福祉士の仕事<第2版> (こんなにおもしろいシリーズ)」
「たった1日で即戦力になるExcelの教科書【増強完全版】」
「新潮2022年07月号」

などなど。

今回、とにかく特徴的だったことは、すべての書籍が新しかったことです。2冊を除き2010年よりも後に出版されたものばかり。そのため、状態が非常に良いものも多かったです。

ビジネス書は新刊書店さんでも特設コーナーが設置され、売れ筋のものが次々と入荷される人気ジャンルですが、そのため流通量も多く内容が古くなるとすぐに値段が下がってしまいます。このような本をたくさん所有されている方は、読まなくなったら(あるいはお部屋の隅や本棚に長い間積んで置かれるようになってしまったら)是非、新しいうちに当店にお譲りください! 

さて、上記のような感じで様々なジャンルの新しい本が目の前に並んだことで、またどの本をピックアップしたら良いか目移りしてしまい非常に迷ったのですが、今回はこの本にしました。

「21世紀の道徳 学問、功利主義、ジェンダー、幸福を考える (犀の教室)」(2021年、ベンジャミン・クリッツァー著、 晶文社)

です。

内容はタイトルのまま、学問の意義、功利主義、ジェンダー、幸福についての著者の考えが道徳的・倫理的見地から語られています。

Amazonの本書カタログには、本書についての紹介が以下のようにされています。(「」内引用)

ポリティカル・コレクトネス、差別、格差、ジェンダー、動物の権利……いま私たちが直面している様々な問題について考えるとき、カギを握るのは「道徳」。進化心理学をはじめとする最新の学問の知見と、古典的な思想家たちの議論をミックスした、未来志向とアナクロニズムが併存したあたらしい道徳論。「学問の意義」「功利主義」「ジェンダー論」「幸福論」の4つのカテゴリーで構成する、進化論を軸にしたこれからの倫理学。

上記の紹介文の中に「最新の学問の知見と、古典的な思想家たちの議論をミックスした」とありますが、より具体的に書くならば、こういった進化論や進化心理学が持ち合わせる「理性」を、「感情」を重視しがちな(もしくは、重視していると思われがちな)既存の道徳論や倫理に持ち込んで議論を進めることが本書全体のスタンスとなっています。

著者のベンジャミン・クリッツァーは父母ともにアメリカ人、自身もアメリカ国籍を持っているようですが日本で生まれ育った方です。そのため、訳者はおらず自身が日本語で記述しています。語彙のデリケートな部分の訳が”ハマって”いないために、イマイチ何を言いたいのか分からない哲学や倫理の本というのがたまにありますが、こちらの本はそういった意味での「理解しにくさ」の心配は要らない本です。そして、本書はクリッツァー氏のブログ「道徳的動物日記」(DavitRice名)に掲載されていた内容に大幅に加筆・修正がなされたものが1冊の本としてまとめられたものでもあり、一般の読者が読んでも理解しやすい平易な言葉で書かれています。

本書の前身となった上記ブログ、「道徳的動物日記」というタイトルからも分かるように、著者は元々、大学で勉強していた動物倫理学を紹介することを目的としてブログを運営していたようです。本書でも第1部「現代における学問的知見のあり方」に第3章「なぜ動物を傷つけることは「差別」であるのか?」というトピックが盛り込まれています。

ちなみに、この第1部の「現代における学問的知見のあり方」は、学問全般のというよりも人文科学を学ぶことに何の意義があるのか?ということを主題にしています。個人的な話ではありますが、人文科学を大学で専攻していた身としては「それ、何の役に立つの?」と遠慮なく言ってくる人に何度か遭遇したことがあるので、特にワクワクしながら読みました。

「きっと、人文科学を学ぶ意義を無粋者(←失礼)にビシっと言ってくれるんだ!・・・自分では上手く説明できないけど!!(悲)

と。

結論から言うと、もちろん人文科学を学ぶ意義を説明してくれてはいるのですが、あくまで「理性的」に、です。むしろ、そのような問いかけをされたときに人文学徒たちが採用しがちな間違った対応についても記載されていて、「むむむ、確かにそういうとこあるよな…」と反省してしまいました。どんな内容であるかは実際に読んでいただくとして、同じような質問にどう答えるべきかヒントになる部分は必ずあると思われます。

第1部序盤から感じることではありますが、第2部以降の「功利主義」や「ジェンダー」、「幸福論」などの議論の過程で、著者は世の中にある道徳的、倫理学的トピックの何事についても「中庸」「バランス」をとることを基本姿勢としていることが分かります。それは先に書いたように「感情」と「理性」のバランスでもあり、「古典」と「最新の知見」の両者の良いところを採用することでもあります。

えてして、「中庸」たるところに結論を持っていこうとすると、要点がぼやけることの多い哲学的な議論ですが、本書のタイトルは「21世紀の道徳」です。

ところで、こちらの本を読んでいくにあたって哲学と倫理、道徳の違いについてふと考えたのですが、みなさまはどのように定義わけをされているでしょうか?いろいろなページを参照してみると、おおよそどの参照先でも倫理学・道徳というのは哲学の一分野ではあるものの、「哲学は理論的な問題を扱い」、「倫理学は実践的な問題や善悪について考える」という違いがあるということで一致しているようです。つまり、道徳や倫理学は人々が暮らしていく場面で抱く「どうすればよいか?」という善悪判断基準をより具体的に与えうる考え方であるのだと再認識しました。

そう理解すると、著者が「まえがき」に書いた

「哲学といえば、「答えの出ない問に悩み続けることだ」と言われることもある。だが、わたしはそうは思わない。悩み続けることなんて学問ではないし、答えを出せない思考なんて意味がない」

という文章と、タイトルには哲学ではなく「道徳」という言葉を採用したこと、そして「中庸」を目指しながらも一応の著者の考え方が各部各章において結論という形で提示されていること、それぞれがリンクしていることに気づき、驚きました。議論の対象となっているトピックも広すぎて、どう収束させるのか初めはドキドキしましたが、読後に一本筋の通った著者の思考体系がうすぼんやりと垣間見えたとき、思わず「おおお…」と声が出ました。そのぼんやり見えたものがクリッツァーという人物の、いわゆる「道徳観・倫理観」というものなのでしょう。

 

私は先程、「一本筋の通った」と書きましたが、著者自身が書いているように、そして、ここに私も書いたように、本書では議論の対象となっているトピックがあまりに多岐に渡るため、著者の主張について「ここは納得できる」「いや、でも、ここは納得や共感ができない」という部分があります。(例えば、「植物は動物のような神経を持たないという解剖学的な理由」や「そもそも動くことのできない存在である植物が痛覚を発達させるメリットが存在しないという進化論的な理由」から、”動物を殺して食べることは否定されるべきだが植物は食してOK”という著者の主張は、個人的には科学的な裏付けが乏しく論理的でないように思えました。)

しかし、これもクリッツァー氏がどこかに書いたように、人はその個人が置かれた環境から影響を完全に受けないということも不可能だし、人間は自分の見解に都合の悪い判断を直視することを避けがちな生き物です。それはいくら「理性」を持ち出したところで解決できるものではないでしょう。そして、そういった倫理観のバラツキの可能性について言及する箇所ではさすがの著者も歯切れが悪くなっています。

しかし、それも仕方のないことです。著者は「重要なのは主張が突飛であるかどうかではなく、その主張が正しいかどうかである」と強気に書いていますが、「中庸」を目指す姿勢と、それ以外は否定せざるを得ない厳しさをもつ「正しさ」の存在を両立することは、そもそも困難な気がするのです。そして、それを明言しないまでも著者もそのことには勿論気がついているはずです。ですが、そこであえてお茶を濁さずに答えを出そうとする姿勢は、非常に勇気あるものだと思うのです。

 

一方で、著者のその心意気を無下にするような書き方にはなりますが、どちらかといえば、こういった本を読む側に重要なのは極端なイエス・ノーを求めることではなく、ある倫理的・道徳的なトピックに関して自分の倫理観や道徳観に反する考え方が存在することを知ること、それらを斟酌すること、そして必要なら自分の考えに軌道修正を試みる勇気を持つこと、ではないかなと思っています。少なくとも本書からは、この重要な点を学ぶことができたと感じています。

本書では、著者の思想に影響を与えたと思われる心理学者、思想家などの著作が多く引用されています。「トロッコ問題」「ダーウィニアン・レフト」「ファスト・アンド・スロー」など倫理分野に限らないさまざまな主題にも言及があります。

読書の秋です。本書を入り口に引用文献ごと楽しんで、どっぷり倫理・道徳について考えてみませんか?

 

今回も良書をたくさんお譲りいただき、ありがとうございました!

スタッフN

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